電動工具のメンテナンスをしていると、どうしても避けて通れないのが「絶縁抵抗測定」です。でも、いざ測ろうとした時に「あれ?この工具、アース端子がないぞ?」と迷ってしまうことはありませんか。特に最近の電動工具は、安全性を高めた二重絶縁構造(クラスII)が主流になっており、昔ながらのアースクリップを繋ぐ場所が見当たらないケースが増えています。
現場で急に点検表の提出を求められたり、中古で手に入れた工具の状態が心配だったりする時、正しい測定方法を知らないと焦ってしまいますよね。実は、アース端子がない場合でも、ボディの一部を基準にしたり、ちょっとした工夫を凝らすことで測定自体は可能です(※ただし電子制御の有無などで「測り方の注意点」は変わります)。
この記事では、金属ボディや樹脂ボディなどケース別の接続方法から、基準値となる1MΩの考え方、さらには「無限大」が表示された時の判断ポイントまで、現場視点で分かりやすく図解(イメージ)を交えて解説していきます。テスターで代用しようとして失敗する例なども紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
- アース端子がない環境での正しい測定回路の組み方
- 金属ボディや樹脂ボディなど工具の種類に応じた接続場所
- 測定結果が1MΩ以上や無限大だった場合の合否判定
- 作業中の感電事故を防ぐための安全な手順と注意点
電動工具の絶縁抵抗測定でアースがない場合の基礎知識
まずは、なぜアース(接地)がない状態で測定を行う必要があるのか、そしてその際の基本的な考え方について整理しておきましょう。「とりあえず針が動けばいいや」という感覚で測定していると、本当の意味での絶縁不良を見逃してしまい、重大な事故に繋がる恐れがあります。
- なぜ二重絶縁工具でも測定が必要なのか
- 測定のやり方はスイッチONが重要ポイント
- クリップはどこへ?金属ボディのアース接続
- アース端子がない樹脂筐体でのアルミ箔活用法
- おすすめチェッカーとテスター代用の注意点
なぜ二重絶縁工具でも測定が必要なのか

インパくんこのグラインダー、二重絶縁(回マーク)があるからアースなんていらないですよね?ってことは、絶縁抵抗測定もしなくていいんじゃないですか?



いやいや、実はそこが落とし穴なんだ!二重絶縁でも、中でカーボンブラシの粉が溜まると電気の通り道ができちゃうことがある。見た目は綺麗でも、中身は分からないから測定が必要なんだよ。
確かに、二重絶縁構造は、機能的な絶縁(基礎絶縁)の上に、さらに万が一のための保護絶縁(補助絶縁)を施した頑丈な作りになっており、構造上は保護接地(いわゆるアース接続)が不要です。
しかし、だからといって「メンテナンスフリー」というわけではありません。むしろ、建設現場や加工場などの過酷な環境で酷使される工具だからこそ、目に見えない内部の劣化を定期的にチェックする必要があります。
私が普段使っているディスクグラインダや電気ドリルもそうですが、工具の内部にはモーターの回転に伴って摩耗したカーボンブラシの粉が少しずつ蓄積していきます。このカーボン粉は導電性(電気を通す性質)を持っているため、モーター内部やスイッチ周りにびっしりと堆積すると、本来電気が流れてはいけない場所へ電気の通り道(リークパス)を作ってしまうことがあります(※機種・使用環境によって起こりやすさは変わります)。
特に「アースがない場合」と検索される方の多くは、現場の安全管理基準で「持込工具の使用前点検」が求められていたり、長年使っていない工具を久々に引っ張り出してきたりしたケースではないでしょうか。二重絶縁であっても、湿気や粉塵によって絶縁性能が低下すれば感電のリスクは十分に生じます。「電気が漏れる隙間ができていないか」を確認することは、自分自身が感電しないための最後の砦であり、プロとしての責任でもあるのです。
測定のやり方はスイッチONが重要ポイント


測定を始める前に、技術的に絶対に忘れてはいけない手順があります。それは、(機械式スイッチで主回路を開閉しているタイプの)電動工具のスイッチを「ON」の状態にすることです。これを忘れると、測定結果が「測れていないのに良好」に見えることがあります。



クリップも繋いだ!測定ボタンON!…よし、針が動かないから無限大(∞)ですね。この工具は絶縁バッチリです!



ちょっと待った!その工具、スイッチが入ってないよ?スイッチがOFFだと、肝心のモーターまで電気が届かないから、何も測れてないのと同じなんだ。トリガーを固定してもう一回測ってみて!
なぜスイッチをONにする必要があるのか?
電動工具の構造を電気回路としてイメージしてみてください。コンセントプラグから入った電気は、スイッチという「関所」を通って初めて、心臓部であるモーター(フィールドコイルやアーマチュア)に到達します。
もしスイッチがOFF(切断状態)のままで測定電圧(500Vなど)をかけても、電気はプラグからスイッチの一次側(手前)までしか届きません。つまり、最も故障や絶縁劣化が起きやすいモーター巻線やカーボンブラシ周辺の絶縁状態を十分にチェックできていないことになります。「測定値は無限大(良好)だったのに、現場で使い始めたら異常が出た」というトラブルの一部は、このスイッチ入れ忘れ(または測定対象範囲の取り違え)が原因になります。
具体的な手順としては以下の通りです。
- トリガー式スイッチの場合:ロックボタンを使ってON状態で固定します。ロック機能がない場合は、結束バンドやビニールテープでトリガーを強く引ききった状態に固定してください。
- スライドスイッチの場合:「ON」の位置にスライドさせます。
- パドルスイッチの場合:こちらも結束バンド等で握り込んだ状態をキープします。
もちろん、これら全ての固定作業は必ず電源プラグをコンセントから抜いた状態で行ってくださいね。通電したまま固定すると、プラグを差した瞬間に工具が暴れ出して大怪我をします。
クリップはどこへ?金属ボディのアース接続


通常の屋内配線(コンセントや照明回路)の測定なら、分電盤のアース端子(接地極)に測定器のEARTH側(黒クリップ)を繋ぎますが、工具単体で測る場合は少し勝手が違います。「アースがない場合」の測定とは、地面(地球)に対するアースではなく、「工具の外郭(人が触れる部分)」を基準電位(EARTH側)と見立てて、電路との間の抵抗値を測定することを指します。
具体的な接続手順と、接続箇所の選び方をリストにまとめました。
手順1:EARTH側(黒クリップ)の接続
測定器の黒いクリップを、工具本体の露出している金属部分にしっかりと挟みます。塗装の有無が正確な測定の鍵を握ります。
| 判定 | 具体的な接続箇所 |
|---|---|
| OK (推奨) | ドリルのチャック(先端工具を取り付ける部分) 定盤の裏側(丸ノコなど) ギアケースの未塗装部分(銀色のアルミダイキャスト部) 露出している金属製のネジ頭 |
| NG (不可) | 厚い塗装で覆われているボディ(電気を通しません) ゴム製のグリップ部分 プラスチックのカバーやハウジング |
どうしても塗装面しかない場合は、クリップのギザギザした歯で少し塗装を削るようにして強引に接触させるか、組み立てに使われているネジの頭を探して接続してください。
手順2:LINE側(赤プローブ)の接続
次に、測定器の赤いプローブ(測定棒)を、電源プラグの刃(端子)に当てます。プラグの刃は2本ありますが、どちらか片方だけでは工具内部の回路状態によって測定値が安定しないことがあるため、2本の刃をクリップ付きコード(ミノムシクリップ等)でショート(短絡)させておき、そこにプローブを当てる方法が実務上は確実です(※現場ルールで「片側ずつ測定」が求められる場合は、その手順に従ってください)。
アース端子がない樹脂筐体でのアルミ箔活用法


最近の電動工具は、軽量化と二重絶縁のためにボディ全体が樹脂(プラスチック)で覆われているものが主流になっています。「金属部分なんてどこにも露出してないよ!ネジも奥まってて届かない!」と困ってしまうケースも多いですよね。そんな時にプロが現場で使う裏技であり、安全規格の試験でも“外郭の絶縁材料に金属箔を密着させて評価する”考え方と整合するテクニックが「アルミ箔」の活用です。
見た目は少し工作っぽいですが、電気的には非常に理にかなった方法です。
アルミ箔を使った測定ステップ
- 準備:家庭用のアルミ箔を用意します。
- 巻き付け:工具のハンドル(握り手)部分や、モーターが入っているボディ全体を、アルミ箔で隙間なく包み込むように巻きます。
- 密着:アルミ箔が浮かないように、手でしっかりとボディに密着させます。これが「人が手で工具を握った状態」を電気的に近い形で再現することになります。
- 接続:そのアルミ箔の上から、測定器のEARTHクリップ(黒)を挟みます。アルミ箔が破れないように優しく挟んでください。
- 測定:この状態で通常通り、プラグの刃にLINEプローブ(赤)を当てて測定します。
この方法を使えば、樹脂ボディの表面に微細な亀裂(クラック)があったり、手垢や油汚れで表面の絶縁抵抗が落ちていたりする場合でも、漏電リスクの兆候を拾いやすくなります。樹脂製だからといって測定を諦めず、ぜひこのひと手間を加えてみてください。
おすすめチェッカーとテスター代用の注意点
「手元にある普通のテスター(マルチメーター)じゃダメなの?」という質問をよく頂きます。確かにテスターにも抵抗を測るレンジはありますが、結論から言うと一般的なテスターは“安全判定のための”絶縁抵抗測定の代用にはなりません。



専用の測定器なんて高くて持ってないですよ…。このホームセンターで買ったテスター(マルチメーター)で抵抗を測れば代用できますよね?



それは絶対にダメ!普通のテスターは電圧が低すぎて、本当の絶縁不良を見抜けないことがあるんだ。『異常なし』と出ても、実使用電圧をかけた瞬間に問題が出る可能性があるよ。
なぜダメなのか、専用の絶縁抵抗計と何が違うのかを表にまとめました。
| 項目 | 絶縁抵抗計(メガー) | 一般的なテスター |
|---|---|---|
| 印加電圧 | 125V / 250V / 500V など (高い直流電圧を印加して絶縁の弱点を確認する) | 約 3V 〜 9V (電池の電圧レベルが中心) |
| 測定目的 | 絶縁性能の確認 漏れ電流の原因になり得る劣化を見つける | 導通確認・抵抗値測定 断線や部品抵抗の把握が主目的 |
| 判定能力 | 湿気・汚れ等による“高抵抗寄りの漏れ”も検知しやすい | 高電圧時にだけ顕在化する弱点は検知できない場合がある |
テスターが危険な理由
低い電圧(テスター)では「絶縁されている(抵抗が非常に高い)」と表示されても、実際の商用電源や試験電圧相当のストレスを与えたときに、弱い部分で漏れが増える(または絶縁破壊が起きる)可能性があります。テスターでのチェックはあくまで「断線」や部品確認の用途が中心であり、安全性を保証するものではないと覚えておきましょう。
私のおすすめは、現場管理者向けに作られた電動工具専用の簡易チェッカー(例:テンパール工業のMC-3Aなど)や、電気工事士が使用するJIS適合の絶縁抵抗計(メガー)です。特に専用チェッカーは、「良・不良」をランプの色で判定してくれるため、専門知識がない方でも迷わず合否判定ができる優れものです。
電動工具の絶縁抵抗測定をアースがない場合に行う方法
ここからは、実際に測定した数値(メガオーム)をどう読み解くか、そして基準はどう考えるべきかについて深掘りしていきます。数値が出たけど、これが安全なのか危険なのか判断できないと、点検表への記入もできませんからね。
- 絶縁抵抗の基準値と1MΩ以上の正常値
- 0Ωや無限大が出た時の判断と対処法
- 作業中に感電してビリビリするのを防ぐには
- PSEや電技解釈における法的要求事項
- 電動工具の絶縁抵抗測定はアースがない場合も重要
絶縁抵抗の基準値と1MΩ以上の正常値


測定ボタンを押して、針(またはデジタル数値)が安定するのを待ちます。では、具体的に何メガオーム(MΩ)あれば合格ラインなのでしょうか。
まず前提として、絶縁抵抗の「合否基準」は、(1)建物側の電気設備としての基準と、(2)製品安全(電気用品・機械安全規格)としての基準で考え方が分かれます。現場実務では安全側に倒して「1MΩ以上」を目安にする運用が広く採られています。
| 測定値 | 判定 | 状態と対応 |
|---|---|---|
| 10MΩ以上 (または∞) | 優良 | 非常に健全な状態の目安です(※機種や測定条件によっては初期でも値が動くことがあります)。 |
| 1MΩ 〜 10MΩ | 合格 | 使用可能な目安です。清掃・乾燥保管で改善することもあります。 |
| 0.1MΩ 〜 1MΩ | 要注意 | 建物側の電気設備基準(対地電圧150V以下の電路で0.1MΩ以上など)で見ると“最低限”の範囲に近く、工具としては劣化・汚損・浸水等が疑われます。分解清掃や修理を検討すべきレベルです。 |
| 0.1MΩ未満 | 危険 | 即使用禁止。絶縁破壊や浸水等の重大な欠陥が疑われます。修理に出すか廃棄してください。 |
一般的に、「1MΩ以上」あれば電動工具としては正常と判断する運用が多いです。購入して数年以内の工具であれば、測定器によっては「∞」に近い表示や、かなり高い値が出ることも珍しくありません。逆に、1MΩを切るようであれば、何らかの異常(湿気、粉塵、内部汚れ、傷、浸水など)が発生しているサインだと受け取ってください。
0Ωや無限大が出た時の判断と対処法
測定結果が極端な数値を示した場合は、工具の異常だけでなく、測定器の故障や使い方のミスも疑う必要があります。慌てずに状況を整理しましょう。
0MΩ(針が右に振り切れる)の場合
これは数値が低いどころかゼロに近い状態で、完全に「ショートしている(導通している)」危険な状態です。電源コードの中で線が押しつぶされて溶着しているか、モーターが焼損して内部の銅線がボディに直接触れている可能性があります。
もしこの状態でコンセントにプラグを差すと、ブレーカー動作や発熱・破損に繋がる恐れがあります。絶対に通電しないでください。
無限大(∞)の場合
一見すると「絶縁状態が最高に良い(電気が全く漏れていない)」ように見えますが、ここで一度立ち止まってください。疑うべきは「スイッチの入れ忘れ」や「測定回路が成立していない(接触不良など)」です。
先ほどお伝えしたように、スイッチがONになっていないと測定回路が成立せず、たとえモーター内部が絶縁不良を起こしていても、そこまで電気が届かずに「無限大」と表示されてしまうことがあります。スイッチを確実にONへ固定し、クリップの接触(塗装・錆・汚れ)も見直してから、もう一度測定してみてください。それでも無限大であれば、本当に絶縁状態が良い可能性が高いです。
作業中に感電してビリビリするのを防ぐには


絶縁抵抗測定は、500Vや1000Vといった高電圧を人工的に発生させて行います。「電池で動くハンディタイプの測定器だから大丈夫だろう」と油断していると、思わぬしっぺ返しを食らいます。
測定後の「放電(ディスチャージ)」を忘れずに!
電動工具にはノイズ防止用のコンデンサなどが内蔵されており、測定が終わった直後も、工具内部に電気が溜まっている(帯電している)ことがあります。
測定ボタンを離した後、すぐにプローブをプラグから離さず、数秒間そのまま当て続けてください。最近の測定器には「自動放電機能」がついており、残留電圧を安全に逃がしてくれます。表示が落ち着いたのを確認してからプローブを外す、この一連の動作を癖にすることで、測定後の「ビリッ!」という事故を防ぎやすくなります。
また、測定ボタンを押している間は、工具の金属部分やプローブの先端ピンには絶対に触れないでくださいね。静電気の比ではないくらい痛いです。電動工具全般の事故を避けるための基本(固定・保護具・注意点など)は、インパクトドライバーで木材をヤスリがけする際の安全対策(キックバック等)も考え方の参考になります。
PSEや電技解釈における法的要求事項
少し堅い話になりますが、点検表を作成する上で根拠となる法律・基準の話もしておきましょう。ここで混同しやすいのが「電気設備(建物配線など)の基準」と「製品安全(PSEなど)の基準」です。
まず、電気設備技術基準の解釈では、使用電圧が300V以下で対地電圧150V以下の電路(一般的な100/200V系の電路など)の絶縁抵抗は0.1MΩ以上といった形で規定されています。これは“電路(配線)としての最低限の保安水準”です。
一方で、電気用品安全法(PSE)の世界では、製品区分ごとに「試験条件(温湿度、通電、乾燥後など)」「測定箇所(充電部と外郭など)」「求められる絶縁抵抗値」が定められ、二重絶縁構造を含む機器で、より高い絶縁抵抗値が要求される例もあります(※要求値は製品区分・試験手順によって変わります)。
そのため、現場の安全管理としては、法律上の“最低ライン”だけに合わせるよりも、余裕を見て1MΩ以上を合格ラインとして運用するのが安全側です。(出典:経済産業省『電気設備の技術基準の解釈』)
電動工具の絶縁抵抗測定はアースがない場合も重要
最後に、現場でよく聞かれる疑問をFAQ形式でまとめました。疑問をスッキリさせてから測定に取り掛かってくださいね。
よくある質問:電動工具の絶縁抵抗測定Q&A
まとめになりますが、アース端子がない環境や二重絶縁の工具であっても、原理と注意点を押さえれば正しく点検することができます。
- 接続場所:ボディの未塗装金属部、またはアルミ箔を巻いて外郭基準(EARTH側)と見なす。
- 事前準備:(機械式スイッチの工具では)スイッチは必ずONにして固定し、測定対象回路を成立させる。
- 判定基準:電気設備側の最低基準は0.1MΩといった規定がある一方、実務上は1MΩ以上を合格ラインとする運用が多い。
この3点を守れば、「アースがないから測れない」と放置せずに、現場の安全を守るチェックができます。定期的な点検を習慣にしていきましょう。安全な道具があってこそ、良い仕事ができるというものですよね。







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